距離/
 
遠い
遠い言葉が
この近さで生まれる
形を変えていく音の
はじまりが揺れ続けて
廊下に落ちていた
誰かの笑い声を思い出す


+


夕暮れが残る夜
潜みの中の湿った皮膚へ
そっと 息を送ると
乾ききっていた声が
わずかな色を持って
指先まで伝わってゆく
溢れることのない
内側の世界で

いつも この近さで


+


外を眺めるのをやめて
一日、と呟く

窓は固定されているから
いつまでも皮膚は湿ったまま
触れるということを知らない

反響音の重なりが
小さな部屋を覆って
行くあての無いままに
鋭さを増してゆく



[次のページ]
戻る   Point(10)