ハリエニシダ/「ま」の字
―あるいは隠棲と知識
その先は海へといたる低地帯
広大なだけの空が暮れはじめると
きょうも
背(せい)の高い草は
静かで乾いた音をたてる
立ってることを止(や)めようか
誰に言ってんだよ
だってこれじゃまるで首がない
いいじゃねえか 似合いだわ
僕はいつか裸で 背筋までくろい
風が出て
持主のわからない畑が
寒空でわあわあさわいでいる
不意の風むきにふりかえる
なにかが
ひゅいと曲る
はずれた犬の歯を見つける
帰ったら事典をひろげて
ハリエニシダという名の草を調べるのだ
プラスチックで密封されて 人が捨てられていたが
誰の言うこともきかなくなっていたから僕は
そのまま通り過ぎる
(四つ足はかんべんだな
風に揺れるハイイロアザミのかげからぎょろぎょろ目を凝らしていたので
晩は熱いおじやがいい
書架から事典をとり出すまえに
改めて身になにも付けない
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