糸/
小川 葉
思い出の糸を手繰り寄せる
思い出の数だけ増えた糸は
今や無数にあるけれども
手繰り寄せる糸の手応えは
どれもあきれるほど弱く
数だけが増えた思い出の糸
これだけの思い出が
本当に現実にあったのだろうか
私は自分の記憶を疑いはじめる
しかし手繰り寄せる糸の中に
じつにしっかりと重々しい
一本の糸があった
あの強烈に胸に電気が走るような
すべてがはじまる瞬間の
思い出の糸だった
戻る
編
削
Point
(3)