糸/小川 葉
 
思い出の糸を手繰り寄せる

思い出の数だけ増えた糸は
今や無数にあるけれども

手繰り寄せる糸の手応えは
どれもあきれるほど弱く

数だけが増えた思い出の糸

これだけの思い出が
本当に現実にあったのだろうか

私は自分の記憶を疑いはじめる

しかし手繰り寄せる糸の中に
じつにしっかりと重々しい
一本の糸があった

あの強烈に胸に電気が走るような
すべてがはじまる瞬間の
思い出の糸だった
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