ブランコ/小川 葉
 
ついひたってしまいがちな夜の昼下がりに
私はかばんの中にクッキーを探し当て
ほおばりながら目を閉じて鏡にキスしてしまいました
おやすみなさい



朝の笑顔に夜のおもかげを残しながら
今朝もまた庭の花には朝露が光っていて
そのわざとらしいほどの乙女を憎々しく思う

お母様の手料理は好き
やさしさが詰まっている気がする
私はまだそんなふうにつくれない
誰がつくっても同じみたいな
目玉焼きでさえなにをどうすれば
あんなにほっこりしたしあわせな味になるんだろうと
不思議で不思議でしょうがない

でも私お腹すいていたくせに
わざと朝食食べなかった

ちょっと伏し目がちに
病んだような顔して家を出てみたから
今頃お父様は電車の中で
私のこと心配してくれてるかな

なんて考えてたら腹の底から可笑しくなってきて
げらげらと上を向いて大げさに歩きながら
肩がぬけるくらいブランコみたいに
かばんを大きく大きく前後に揺らして
そのまま空高くぶんなげてやりたくなった
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