ベランダ/小川 葉
照明をを落とした夜のワンルーム
音を消したテレビが無機質に
目の前の裸体を点滅させている
果実から流れ落ちて乾いた液体の匂い
ワンルームの部屋中に充満し
くちのまわりには
唾液の匂いがこびりついていて
砂漠のように喉が渇いている
小さなベランダに出ると
遠くを新幹線の光が流れていた
煙草の煙と唾液の匂いが混じり合った
非日常の深呼吸をしてるうちにふと
隣のベランダに一匹の猫がいることに気づいた
今にも子供を産みそうな激しい声をあげている猫
隣の部屋に入りたそうにして
窓のガラスをひっかいている必死に
僕は猫の悲鳴にあわてて部屋にもどって
それからすばやく窓を閉め
ほっと安堵の表情を浮かべて顔を上げた瞬間
目の前にのっそりと微笑の裸体が立っていた
部屋中に果実から流れ落ちる液体の匂いがたちこめていた
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