月視/チグトセ
穴ぼこをつくって暮らしているその一枚岩は、綺麗だった
無色に綺麗だった
何者もここまでやってきた僕を案内せず
僕はそっとしておかれ
だから安心して眺めた
そうして安心して眺めた時間はとろとろと過ぎ行き
誰も案内せず
僕は紐をほどき
袋をあけてクッキーを食べた
できたてのクッキーは、微熱と僕の愛情が籠もっていて美味しかった
ほっこりと甘く
長く噛むと終わりのほうで熟れた栗の味がする
もう少し噛むと、奥のほうで純粋な糖の味に変わる
その最も原始的な味が、舌の端の顎の付け根に染みたあとに
元のクッキーの味が戻ってくる
それはとても美味しいものだった
とても美味しいクッキーだった
緩やかに退いていった微熱と僕の愛情が籠もっていて、
そのクッキーはとても美味しかった
本当に美味しいクッキーは、ついに、気が付いたときには、袋の中からその姿を、一つ残さず消してしまっていた
黄色かったあなたの部屋は今、
真っ黒になった
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