月視/チグトセ
あなたの住むマンションまでやってきた
あなたに食べてもらおうと思って焼いたクッキーは
人生で初めて焼いたクッキーは
思う以上に手間取り
夜になってしまった
マンションはほとんど街のはずれの海辺に位置した
暗みの中で無言の姿が月射に浮き
硬質の縁は火照って紫で
鋭利な線がすとんと底の茂みに向いて落ちていて
目をこらせば薄ぼんやりとしたカーディガンのような影が、角張って貼り付いているのがわかった
背後に見える輪郭だけの鉄塔は首を傾いで眠っていて
宇宙の光は今夜あまり届いていない
ここからマンションまでの黒い距離と黒い森は小さくて
目立ちはしない
たくさんの人間が穴ぼ
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