画廊/小川 葉
ひとは誰かと接しながら
頭の中のキャンバスのようなものに
相手の絵を描いているようなところがないだろうか
デッサンがうまくいかなくて
何度も何度も描き直し苦心している絵
とりあえずの下絵が出来たけれど
色を塗ろうかどうか迷っている絵
色をうすくうすく塗り重ねながら
背景には何を描くべきか悩んでいる絵
色を塗りすぎたことを知りながら
さらに塗りすぎて汚してしまった絵
細かい部分を写実的に欠点までも精密に
描きすぎてしまった絵
もう少しで完成なのにいつまでも
ためらって筆が遠のいてしまった絵
ためらっているうちに
時が過ぎるほど遠く色あせていく絵
いろいろ工夫してみたものの
思ったよりも面白さに欠ける絵
うまく描けているけれども
ただ奇麗なだけで魅力に欠ける絵
ついに破ってしまった絵
不意に破られてしまった絵
いつのまにか消えてしまった絵
画廊には描きかけの絵ばかり
ごたごたいっぱいあるだけで
完成した絵はまだ一枚もない
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