巣ごもりの季節/シリ・カゲル
二分に堪能した後
僕は今夜のディナーのお礼が言いたくて
給仕にシェフを呼んでもらおうとする
しかし、給仕は「申し訳ございません。
実を申しますと、当店のシェフは引きこもりで、厨房にはおりません」
と、深々と頭を下げるのだった
なんでも、シェフは毎日、自宅から一歩も出ることなく
自らが「ラボ」と呼ぶ自宅の厨房から
アルバイトの学生に料理を届けさせているのだという
「本当に申し訳ございません。
シェフのほうには、私どものほうからお伝えしておきますから」
それなら仕方ありませんね
最近はそういうシェフも多いんですかね、と僕がため息をつくと
「こういう時代ですから、そういうシェフも多いと聞きます」
と、初老の給仕は答えて遠い目をするのだった
その頃、シェフは薄暗いラボにこもって
新しい巣ごもり料理の開発に没頭しており
マンマが心を込めてこしらえた夕食のニラレバ炒めは
ラボの外の廊下で冷気にさらされたまま
今夜はもう開くことのない扉を、じっと見つめているのだった。
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