春四月、桜の下で/黒猫館館長
 
も遠い位置にいるが故に。


 「願わくば花の下にて春死なむ
           そのきさらぎの望月のころ」

                 西行法師


西行は生命の死に絶える冬に死を願うのではない。
生命力が燃えいずる春だからこそ死を想うのだ。
青春とは死を想う季節なのである。
長編異色推理小説『虚無への供物』の作者、塔晶夫は「五月は喪服の季」と詠った。
ならばわたしは四月は臨終の季と詠おう。
 
春とは生命に秘められた死を垣間見る季節なのだ。

しかしこの春もやがては夏へと増長し、秋へと萎み、最後には冬への道をとぼとぼと歩きだすだろう。
終わることのない生命の輪転。

それは地球のいのちの脈動、
そしてまた人間の一生の縮図。

わたしはこの桜の季節をまったき喜びと共に、
そして、その内部に内包した悲しみと共に受け入れよう。

春だ。
今年も春がやってきたのだ。

「若草の萌えいずる春・猫の恋・直情なるものなべてを愛す」
勝部祐子第一歌集『解体』(不識書院)より引用。

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