ドーナツに聴かせる歌/シリ・カゲル
 
草野球のナイターが終わり
管理人が外野の照明灯を落として
軽自動車で市営球場を後にするのを見届けると
僕はいつものようにフェンスを乗り越えて
雇われマインスイーパーのような面持ちで
慎重にピッチャーマウンドへと向かう

人々が仕事終わりに散布した熱気と声援は
何組かの結合双生児をその夢の中に産み落としながらも
すでに何層もの冷たい空気に濾過されて
純粋な灰となってピッチャーマウンドに堆積していた

僕は真白に輝く灰を軽く手のひらで払うと
そこにあぐらをかいて歌を作り始める

ノートの切れ端に簡単な五線を書いたものを
ジーンズのポケットから取り出して広げる
紙片と一緒に取り出した
ちびた鉛筆の先をぺろりとなめると
ほのかに満塁ホームランの味がする

ただドーナツのためだけに
聴かせる愛の歌は
いつもほんのすこしだけ残酷なのだ

逃げ遅れた月灯りだけが、いつまでも
五線譜に落とした音符の影を伸ばし続ける。
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