祖父のこと/ふるる
 
の時期に立ち退きを要求され、今はもうない。別の場所に、現代風の邸宅を建ててもらったのだが、半地下の部屋に祖父は研磨機を入れ、水道を引かせ、一部屋分の小さなレンズ工場を作った。
隣の部屋は応接間で、革張りの大きなソファーとピアノが置いてある。
「応接間の隣なのに、黙ってやっちゃうんだから。」
祖母はぶつぶつ言っていたが、私はなにか晴れ晴れとした気分だった。

自分の娘が二人の娘を連れて実家に戻ってきた時の気持ちを、ついぞ祖父から聞いたことはない。

八十六歳になった祖父はレンズの仕事をやめ、日なが一日TVを見たりしている。
相変わらず喋ることは少ない。

私は、祖父の寡黙さを愛している。

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