風を釣る/角田寿星
風のなかに
釣り糸を垂らしている
それはおぼろげとなってしまった古い
記憶をせめて呼び醒ますよすがではなく
かなしい決意でも無邪気な思いつきでも
その日の飢えをしのぐための
投げやりな衝動でもない
そう 映画はつい先頃終わってしまったんだ
セミの声も
カエルの歌もまだきこえない
森の下生えにはやわらかな地衣が
灰とも靄ともつかない細かな粒子が
濡れそぼった銀幕の名残が世界をひそかに凌駕して
あるいはこのまま暴発を待ってる
「このままじゃ 囲碁も打てないねえ」
栗坊主頭の童子がふたり
いかにも手持ち無沙汰ふうに
眉をさやかに寄せて笑っている 実のところ
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