消音現象/楢山孝介
数年振りに故郷の町を歩いた
懐かしい町並みは記憶の中にしか残っておらず
どこもかしこも小綺麗になっていた
野良犬は一匹も見あたらなかった
私のかつて住んでいた土地
私が町を出ていった当時
焼け跡になっていた土地には
真新しい五階建てのマンションが建っていた
いまだに町にしがみついている知り合いなど
もうほとんどいないはずなのに
すれ違う人達皆が知った顔に見えた
向こうもこちらを知った顔のように見てきた
変わったのは町だけではない
私のまぶたは一重から二重になり
顔色は赤黒くなり
眼窩は落ちくぼみ
髪の半分は白髪になった
誰が見ても気付くはずはない
誰の目
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