写真だって色褪せてしまうから/紫苑
冷めかかったコーヒーが半分だけ残っているカップを取る手が
僕の向かいの席に偉そうに座るのが
お昼にかかってくる電話やメールの主が
今玄関を開けたのが
ニュースにいちいち文句をつけるその声が
鏡越しに僕の後ろで歯を磨くのが
随分細くなった彼女を支える存在が
いい大人なくせに子供みたいに車を運転するのが
僕らの少し後ろの方をゆっくり歩くのが
コタツでトドみたいに横になってるのが
シャッター音の向こう側の眸が
日曜日にわざわざ早起きをして日向ぼっこしてるのが
少し呆れながら僕らの馬鹿話を聞いてるのが
夕方頃になってから水槽を洗
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