水の記憶/ピクルス
 

しずやかに睫毛を下ろした女の人の
うっとりと水が疾走する線路の方角に
暮れては滲んでしまう稜線がその輪郭を喪ってゆく
眠れない枕木は鍵盤となって揺れながら
囁かれた嘘の吐息にしがみついた
ざわざわと蔦の翳が延びる嘆きの温室で
感傷の蛇が、嬉しゅうございます、と頷く
そう、水はたっぷりとありますとも

こんなにもたくさん、をひとつと呼んで
続いてゆくもの、拾い損ねて漂ってゆくもの、
そうして、知恵を忘れては積もってゆくもの
やさしい指からこぼれてゆく溜息の底には
ゆるゆると歩き回る怪物達が羽根を燃やしている
瑞々しい囁きの切れ端を大切そうに握って
しとしとと
しと
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