鯨/仲本いすら
 
 
遥かの香りを頼りに
うしおを連れて
白銀になった髭が
私の頬をなぜながら
けおん、と哭き
輝くはずであった私のくちべにを
好きだと言って、
ざぶり、と
その巨体を沈めてゆく
眠りにつく
 
遥か昔に微笑んだ事のある
流氷の瞳からは
街の喧騒が溶け出した
そしてまた
海へと流れだし
誰かの浜辺へと
たどり着く
見つめてしまう
 
私はいま、
その眼の黄々とした
幻想に
 
睨まれている。
 

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