キヨスクと詩集/楢山孝介
 
は毎朝ときめく
 夫ある身だがひたすらときめく
 いい男が来るたびときめいている
 ある朝、尋常でないときめきが私を襲った
 その客は怪訝そうな顔をして
 『母さん、何やってんだ、早く釣り銭くれよ』と言った
 何と、よく見ると私の夫ではないか
 そりゃあときめくわけだ」

いや、この詩は全く関係なかった
とにかく、人は誰でも詩が書けるのだから
書けば人に見せたくなるのだから
こうして安く売ればいいのだということを
おばちゃんはどこかで書いていた

今日僕は、詩を書いた手帖から一枚破って
こっそり、駅のホームの端にある、
木の柱に押しピンで留めてきた
あまり深くは刺さなかった
わざと風の強い日を選んだ
別に吹き飛ばされても構わないと思った
誰にも見つけられなくても構わないと思った
でも少し気を緩めて
おばちゃん監修の詩集の中に
僕の書いた一編が加えられて
キヨスクに並んでいるところを想像すると
恥ずかしさよりも
嬉しさの方がずっとずっと強かった
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