百年と女/楢山孝介
百年前、砂浜に寝そべっていたら
「カニだー」と言いながら幼女がわたしをつまみ上げた
「カニじゃない!」と一喝すると
幼女は両親の元へ泣きながら戻っていった
怒らなくても良かったかな、と少し反省した
九十年前、寝ぼけながら空を飛んでいたら
快活な少女が虫取り網でわたしを捕まえた
「虫じゃない!」と思わず大声を出した
「しゃべった!」と驚く少女の顔に見覚えがあった
昆虫採集セットを振りかざして迫ってくる少女から
わたしはかろうじて逃げ出した
八十年前、怪獣の振りをしてヒーローと戦っていたら
ヒーローに向かって石を投げている女を見つけた
「ええかっこしいは気に入らない」
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