「春のはじまりに」/ソティロ
 

おまけにまた雨がぽつぽつ降る

無言


*


こどもの頃に
迷子になったときの淋しさが
それぞれにふと蘇ったと思う
置き去りにされたような
それからおおきくなったのに
まだ手を繋げずにいる
ぼくらの情けなさ
ぼくの情けなさ

その時になってはじめて
守ろう
と思った
いったいいくつになったんだ


*


ぼくは顔を上げて背筋を伸ばし
ひだり手で
彼女のみぎ手を
掴もうと
した

彼女のみぎ手が宙を舞う
あれ

あーっ、見てみて、ふたごビル。やっと帰れるね

あれ

ん?

あ、いや

ぼくはひだり手をポッケに仕舞った
雨は上がってた


*


春のはじまりに
ぼくはいい気になって


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