雨三編/渡邉建志
 


雨の音。ひっきりなしに続く雨の音。手さぐりで進む迷路の
なか。目を閉じ続けていればだんだん見えてくるものだと聞
いて、心の中に位置座標をプロットしながら雨雨雨、ひっき
りなしに続く雨の音。くるくる回る。

いろいろな人の声が墓地の夜を木霊して行き交う。ここは私
の散歩道で、夜にはだれもいない。心の中に聴こえる声は私
のものだろうか、私の心を借りて呟く精霊達の声だろうか。
途切れ途切れのラジオのように、あちらこちらで聴こえては
消える。

夜の遺跡をこうやって眺めていると、時々のぼっていく小さ
な光が見えるものです。いまはただ、月の光が透明な音を回
しているだけですが、しばらく近くで座ってみていませんか
私のノートは準備完了です。パステルは持ちましたか。ええ
写生するのです。

回転しては上昇するさまざまな色の光が見えはじめてきます
分度器は持ちましたか。もう11時、遺跡公園が回り始めま
した。誰かがまた死んだのです。雨の樹にさえぎられるあい
のうたとともに。雨は熱いですか。そうですか。


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