「 残球。 」/PULL.
く振りかぶり、
肩を放つ。
縫い目に掛かる指先が、
白球にしなる腕が、
重い。
おもい、
振り抜く、
残像が脱けて、
キャッチャーミットを弾いた。
八回。
ストライク!。
スイングアウト三振。
九回。
最後のボールを投げ終えた時、
文字通りマウンドが揺れた。
球場は歓声に包まれて、
おれはその中心に、
今日もいる。
悪くない。
スタンドで馬鹿騒ぎをするあいつらのうち、
どれだけがおれの本当の味方なのかは分からない。
明日になれば、
またおれが投げられなくなれば、
あの歓声はすぐに、
もとの罵声に変わる。
だけど、
それも悪くはない。
延長戦。
あと何球投げられるのか、
それはもう問題じゃない。
おれは今も投げて、
まだ投げている、
それがおれの問題で、
おれの仕事だ。
了。
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