擦れ合うゆびさきで/銀猫
終焉の華やぎを纏い
空いっぱいに広がる桜の隙間を
北風が逃げてゆく
見上げれば天晴の青は淡く
春を深く含んでいる
息を吹き返した芝生の向こうでは
まだ親指姫の誕生しないチューリップの固い赤が
すこし凍えて燕を待っている
春、なのだ
訳もなく浮き立つこころと
真新しい本の扉絵を覗き込むに似たときめき
そんな
春、なのだ
遠い国から降り届く黄砂の霞に触れるたび
わたしの指先はうっすらとざらついて
跨いで来た季節の、
鱗に幾つも傷をつけたさかなを
ふと撫でたくなるのだが
そっとさかなは
ひれをそよがせながら
水のもっと深みに潜ってゆくだろう
わたしは指を持て余し
そっと額を拭ってみるが
黄砂はそこにも僅かにあって
そのふたつの擦れ合う音は
散ってゆく桜にかけられぬ言葉に似ている
春を知ってか知らずか
さかなはゆっくりと濁りの水に消えてゆく
天晴の青、春の隙間で
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