武士のきもち/佐野権太
 
丁寧に舐め上げている
ちぃー、ちぃーと呼んでみる

まるで振り向かない
懐(ふところ)に温めておいたカレーぱんを
ちぎってくれてやる

去っていった
匂いも嗅がずにだ
都会のちりと化した、ぱん屑が
ぽつん
こんがり焼かれている

あんだーすろー
平たい石を
あんだーすろー
着水してホップする
きもち
ねばって、ねばって、波紋
ななつ!



気を取り直して
暖かそうなベンチに座る
カレーぱんをひとくち
齧(かじ)る
もうひとくち
齧る
口の中に
懐かしい母の味が広がっ、、、
ない!
母が   いない!
袋を確認する
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