「掌に残るもの」/広川 孝治
夜、一人じっと手を見る
節くれ立った指の隙間
すくい上げた水は
口元まで届く前に
いつも零れ落ちてゆく
ひりつく喉を潤さず
落ちてゆく水のきらめきを
恨めしそうに睨む
だが
掌に残った雫
喉を潤すには少なすぎるが
甘さと爽やかさを教えてくれる
がぶがぶ飲むなら
知ることの無い味
良いのだ
この無骨な指で
たくさんのものが零れ落ちても
本当に必要なものは
まだ
この掌に残っている
握り締め
胸に当てる
鼓動の早さが
間違っていないことを教えてくれる
わずかではあるけれど
決して譲れないもの
握り締め僕は生きてく
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