あるメルヒェン/シリ・カゲル
コーディオンや、その他の楽器は全部いかれちゃっていたけど、これだけはそっくりそのまま無事だったよ」
イボガエルはテーブルの上のハーモニカを手に取りました。彼女の心とは対照的に、驚くほど軽々としています。動かすと光の角度が変わり、鋼の表面が七色に変化します。
「嵐にあってもへっちゃらなんてスゴイ楽器だね。きっと頑丈にできているんだ。僕にはなんて名前で、どうやって演奏するのかわからないけれど、君はこの森でたったひとりの音楽家だからわかるだろう? どうだろう、また昔のように土曜の晩に音楽会を開いてくれないかな?」そして、しっぽを切られたトカゲはこう続けました。「もう忘れなよ。悪いのはすべて嵐のほうだ。君じゃあない」
いままでイボガエルは口先だけの慰めや、そこに隠された好奇の眼差しにうんざりしていました。しかし、しっぽのないトカゲの発する言葉のひとつひとつは、なんて嫌味がないのでしょう。そう思うと、イボガエルは体がすっかり軽くなったように感じました。彼女は目をつぶってハーモニカを吹いてみました。透き通るような音色が涼やかな森のそよ風に乗って流れていきました。
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