カラスは空にいない/健
微笑みを絶やさない
革靴が焼ける匂いに気付き
僕は足元へと視線を向ける
じっと見つめる という作業だけは
大分上手くなった気がしていた
が、結局は自分ということらしい
屋根だったものに残る熱がすぐそこまで来ている
煙と靴底が空へと昇って行く
僕はもう一度外に目をやり
静かに人の群れを確認する
わからないということを確認する
視界の片隅に写るカラスの
最後の一人との挨拶を終えたその首が九十度回り
こちらへと向けられる
ひと呼吸置いて
落下したビー玉の音が届くように
窓を開けろと言うのが聞こえてくる
何故その声がここに届くのか問いかけるが
返事は無く
カラスはこちらをじっと見つめる
ただひたすらにじっと見つめる
開けてしまったその窓へと
煙は流れるように向きを変えて
四角い枠を覆いながら外へ出て行く
崩れない壁しか見えなくなった僕が
隙間から見上げた空に
どうしようもない青がまた広がる
カラスは
いつまでも入って来ない
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