連作「歌う川」より その1/岡部淳太郎
 
きる
最初の人類である
痩せこけた
男のことだ
彼は
山の中を
水源から歩き始めて
やがて
川となる
水の流れに沿って歩きつづけて
いま
山を降りるところだ
麓には
早くも旧人類の
泥が
散らばり始めている
何という
早過ぎる決定
それでも
彼は
歩く
川岸の
すぐ側まで
押し寄せて来そうな
古い
泥を
無視することなく
直視して
いまや
川となった
水の流れに沿って
歩く
川は
ほら
歌えよ
お前も一緒に
歌ってみろよ
と云っている
歌ってみた
声が出た
決して美しくはないが
他の誰でもない
自分の
声だった
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