ネガティヴ〜たった一つの失敗〜/壺内モモ子
 
料理長は私に言いました。

「刺したいやつがいたら、この包丁をかしてやる」

ああ、料理長、
今すぐ私にその包丁を貸してください。
その包丁で、
自分自身を刺したいのです。
今日、バイトに遅刻した私を、
皆は許してくれたとしても、
私は許せない。
許せないのです。
今日、バイトを無許可で休んでやろう、
と、思っていた、
自分自身を許せないのです。
たったそれだけのことです。
たったそれだけのことです。

完璧な人間なんていないなんて、わかっております。
どんなに上手にできたロボットでさえ、壊れることがあるでしょう。
しかし、
できれば私は完璧な人間になりたいのです。
そんなことを心のどこかで考えています。
ああ、私は、
なんて愚かな人間なのでしょう。
なんて愚かな人間なのでしょう。

料理長の包丁で、
自分自身の中に潜む、プライドの高い悪魔を殺したいのです。
自分自身の中に潜む、プライドの高い悪魔を殺したいのです。
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