春陰/明楽
 

春がゆく
春が ゆく

毎年 逃げ出したくなりますので
束縛の呪文を繰り返し 繰り返し
残りわずかの平衡感覚で
危うい足元を耐えています

一点の迷いもなく
無邪気にあふれる光が
のどかで
あたたかくて
恐ろしいのです

妬み 恨み 悪意など
知らぬままに咲く花が
きよらかで
うつくしくて
忌まわしいのです

そうして
新しい生命が
あまりにも芽吹くので
春 夏 秋 冬 春 と
相も変わらぬ己自身は
どこまでも
みすぼらしくて
汚らしくて

( 薄黒い染みのような
  わたし ですので )

結局 どこにいても
場違いで仕方がないのです

春がゆく ああ
春が ゆく

閉ざされていた窓は
次々と開かれてゆきますのに
わたしは暗い沈黙に
こころを許すばかりです


2007.3.30
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