ダニエルは飛び込んだ!/ブライアン
 
だが、それは二本足で立つという不安定な姿が、可能にしたに過ぎない。人は重力から逃れたわけではない。
 重力は常に下向きの力を加える。「目立つ」ことへの逃亡は、重力の束縛という根本的な力があったから生まれたものだ。完全な宙への逃亡は、足との決別である。
 重力を失った視覚は、体と分裂する。重力を持たない、宙に浮いた光だけを信じることしかできないのだ。
 それは、ないものも存在させれる感覚となる。

 少女が消えた世界にダニエルは立っていた。少女は確かに消えてしまったが、存在していた。少女からもらった髪留めをダニエルは握っている。そして、ダニエルは人が来るのを待った。
 昨日と今日が、似て非なるものであるのと同様に、決意の言葉が変わらずとも、似て非なるものである。ダニエルの嫌いな犬を連れてきた男が、崖に現れる。ダニエルは少々の忠告をその男にすると、昨日の決意と似て非なる決意を宣言する。
 ダニエルは新大陸へと飛び込んだ。

 
感覚における新大陸の発見は、大地感覚に支えられて実現されることだ
「地の眼・宙の眼」  小町谷朝生

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