繍陽/ポッケ
牛乳の膜を静かに
針が飛び出しまた潜って
刺繍をクルクル繰り返す
オレンジの軌跡が寄り集まって
丸く浮かぶ
太陽の象徴みたいに
明日になると果汁が染み出し
あいまいなりんかくになって
感触を手の甲で確かめるけど
生まれたことにも気づかないんだ
朝に刺繍した牛乳は夜まで
ピッチャーに入れて冷やしておいた
グラスに注ぐと芯まで冷えそうな
ハッカ飴かムーンストーンかの色になって
身を浸すように飲み干すと
最後に
オレンジが一房、
唇にあたり
誰かとのキスを
どっちを飲み込んだのか
胃の真ん中が暖められて
赤いオレンジは種を包む
明け方クルクル回り
オレンジになる夢を見た
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