唇に雨粒/蒼木りん
 
唇に雨粒

黒い背広は急ぎ足

これでも
年寄りでも
子どもでもないから

早く終わらせたい世間話
どっちにも取れるため息が
出る

ほら
いつだって
信号は
私の目の前で
黄色になって
行く手を塞ぐから
悪いことしてるって
責めるから

どうして
叱られるのかわからない
何が
いけなかったのかわからない
貴方のための私ではないのに

靴は
埃を被ったまま濡れて
三度目は
それで会いに行った

いつも
暗い階段で
差し出された大きな手は
今でも思い出す

汗かきの男は
嫌い
髪が張り付くから
なのに
それが言えない
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