三月の手紙  デッサン/前田ふむふむ
 
白く鮮やかに咲きほこる、
一本のモクレンの木の孤独を、わたしは、
知ろうとしたことがあるだろうか。
たとえば、塞がれた左耳のなかを、
夥しいいのちが通り抜ける、
鎮まりゆく潜在の原野が、かたちを震わせて、
意識は、漆黒の海原の深淵をかさねながら、
ひかりを見ることがなく、
失われていった限りなく透明な流れを、
いつも一方の右耳では、強靭な視力で見ている、
そのように引かれている線のうえで、
萌えだしている夜明けを、
風雨に打たれて、力なくかたむいて立つ、
案山子のような生い立ちの孤独として、
意識したことがあるだろうか。

恋人よ。
わたしが手紙のなかで描いた円の
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