きっと春だった/ぽえむ君
 
あの日はきっと春だったと思う
部屋に置かれた
アジアンタムの葉がそよいでいた
近くのスピーカーからは
小鳥のさえずる声をバックにした
ピアノ協奏曲が流れていた
窓から差し込む光が
やさしくもあり
どことなく悲しくもあった
何かを思い出しては薄れ
消えては新たな記憶がかすめていった
時だけは確実に流れていたことは
憶えている
何をしなくても時は流れてゆく
何もしないからこそ時の流れを
知るのだろう
気がつけば
せっかく作ったコーヒーが
一口も飲まないまま冷めていた
カップを見つめて
小さく苦笑すれば
あの日はきっと春だったと思った
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