未完のマントラ/もりおかだいち
 
すくわれた
一匹の蜜蜂の羽音
渇いた微風にそよいだ
草木の乱れ
鋭い鎌をたずさえた
物を乞う義足の少年
まちかまえる
一頭の蝶の不確実な飛翔
その美しい軌道
転々と巡礼を続ける修行僧
彼に飼いならされた
二匹の静かな野犬
不意に内耳を劈いた
解き放たれた雄牛の
野生的な悲鳴
およそ
知性と呼ばれるもの全て
恍惚のまやかしに
激しく乱れて
わたしの回廊は
尽く途絶えた

寺院では
冷たい息を殺して
若く艶やかなスワミが独り
一律の震えをもった
武骨な咽喉より
連ね始める
未完のマントラが一つ
幾連もの残響が湛えられ
美しい不気味さに冴えて
鳴り響いていた
   ※
あらゆる予感に締め出された
某日、異国の夕闇にて
   

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