帰り道/川口 掌
社からの帰り道
道端に無造作に転がる石ころ
歩道と道路の境目ブロックの下からしぶとく顔を覗かせる名も知らぬ雑草
誰かの投げ捨てた空き瓶の破れた破片
あの頃と変わらずあるはずの光が目に入らない
生活や 仕事や 恋愛や 友人との些細ないざこざが
小さな心を塞ぎ輝く空気を吸い込む事が出来ない
石ころや雑草やガラスの破片の光は消えて
自分自身で決め付けた当たり障りの無い
つまらない意味だけを残して転がっている
休みを取っての故郷への帰り道
電車の窓から見える雲の向こうに
そびえる山の緑に
青い海の上に転々と浮かぶ島影に
閉ざされ消えかけていたガラスの光が
キラキラ キラキラ と語りかけてくる
耳を澄ましてごらん 目を凝らして見つめてごらん
ほら 聞こえてくるでしょう
ほら ちゃんと見えたでしょう
忘れてはいけない
忘れてはいけないよ
と
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