森の心象 デッサン/前田ふむふむ
木がいさぎよく裂けてゆく。
節目をまばらに散りばめている、
湿り気を帯びた裂け目たち――みずの匂いを吐いて。
晴れわたる空に茶色をばら撒いて、
森は、仄かな冷気をひろげる、静寂の眩暈に佇む。
森番の合図の声が、
うすい陽光のなかから、立ち上がる。
乾いた声は、木霊して、
わずかに残るみどりの葉紋に透過する。
わたしは、新しい斧を振り上げて、
父母の年輪のなかに、鋭い刃を沈める。
ひらかれた木の裂け目が、
みずみずしいいのちの曲線を描いて、
夢のような長い時が鮮やかにもえだす。
腕に積もる心地よい疲労で、
爽やかな汗が、ひたいに溢れ、
あつい滴りが右眼を蔽い、
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