太陽の微笑み/五十川由依
太陽は旅人に微笑んだ
旅人は異国の地の砂を一掬い
病院で眠っている少女の枕もとに置いた
サラリーマンは缶コーヒーを片手に地面を見る
いつの時代だって影は黒い
グループから追われた女子高生は
空を見ることができない
スケッチブックと絵の具しか持たない画家は
光のあたりかたをよく知っている
カンボジアの青年は
ひたすら上を向いている
太陽は微笑んだ
売上げしか気にしていない社員には
どうしても影が濃くなるだけにしか思えない
病院で眠っていた少女が目覚めた時
少女は枕もとの砂を握った
始まりと不安の香りがした
太陽はいつだって微笑んでいる
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