悲嘆/及川三貴
光りの差し込まない部屋の中で
蛍光灯の下 白いノート
灰色の罫線の上に
はにかむ口元を今日も書き取る
鉛筆で書かれたそれは
何度も繰り返す
さようなら
午後の堤防の上で
潮風によろめきながら
帽子のまま見上げた
右眉の上に陽が翳る
海の中は冷たいねと
手を握った
腕時計に反射するパースペクティブ
時間は狂ったような正確さで
形あるものを押し流し
砕いてゆく
膝の上に頭を抱いて
目を合わせれば
縋るような声で
英雄の最期を喋りはじめる
つるぎを握る手を失ったあなたを
だれも救ってはくれない
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