正しくないぼくたちのために/佐野みお
よく話し合って進んできたはずなのに
ぼくたちは何かを大きく間違えて
今考えているものはきっと世界を
ひどく害するような概念のあり方なのだ
嘘つきが一つの嘘をついたばかりに
百の嘘が必要になるのと同じ方法論の
愛の思想を気づかずに抱いていたのだ
ぼくたちはもう限界みたいだ
何か言わなければならないとき
口をついて出てくる言葉の矛盾を
自ら意識せざるをえないのだ
誠実な愛の思想であろうとしていたのだ
愛の真実をつかもうとしていたのだ
美しい関係を形成しようとしていたのだ
少なくともそのつもりであったのだ
何が足りなかったのだろうか
こんなことならいっそのこと
ほどほどの愛みたいなものを
模倣して満足していればよかったのだろうか
ぼくたちは引き返すことはできない
初めからやり直してみるほど若くもない
ぼくたちの思想は世界を害する
ぼくたちの愛は世界の厄介ものだ
ぼくたちの存在が間違いだ
あの日正しく考えたかった
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