ブラウン管の向こう側/五十川由依
 
手をのばす
切り貼りされた
世界の向こう
子どもの声など届かない

紅い空気は
カワイソウネの一言で
青い空気にかえられた
叫び声など届かない

おいしい所だけ
とりあげているデータは
私の瞳につき刺さる
被害者はどっちだ

すました顔したコメンテーターに
この味はわからない
土の下に落とされた者の味わう
この味は

ワイドショーしか見ない奥様
ブラウン管の向こうの
恐怖は知らない

一言が命とりなのさと
硝子は笑って
カメラをまわしはじめる

残された畳は
物語を語らない
日記帳に残された言葉が
かなしく響く

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