三十二行/はらだまさる
 



東京、
その日もひとりで
幡ヶ谷の太陽と
馬鹿みたいに重い、
心細さを背負って
唇を噛んでた


夏の
だれるような湿度と
車の排気ガスと
肌に纏わりつく
人間、の
匂いと


吉野家で
牛丼の特盛りと
牛皿定食を平らげ
セブンスターを二本、
そして軟水の
水を飲んだ


漫画喫茶と、
カプセルホテルと
コンビニと
パチンコ屋と
吉野家と
自販機と。


漫画本以外の
本なんて
数えるほどしか
読んだことなかった
二十四歳の
二十四行。


いま、
春を噛む、三十二歳。





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