線香/はらだまさる
 
うちの親父に罵声を浴びせられながら死んでいった。
 親父は、そんな祖父を愛せずに小さい時から借金と夜逃げと貧困に苦しんでいたが、その反骨もあって若くして事業を興し、世間で言うところの成功を手に入れたひとりだった。浮気を繰り返しては、母親を苦しめていた。親父は酒を呑むと女子供関係なく暴力を振るう弱い男だった。お皿やコップは割れるためにつくられるんだと知った。人も然りだ。傷つき、無言で痛みに耐え、死ぬために産み落とされる。
 
 俺はそんな生活が嫌だった。

 高校二年の時、俺にも生まれて初めて彼女が出来た。隣町に新しく出来た分校に通うひとつ年上の女だった。キスもセックスもその娘が初めての相
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