燃料切れ/光冨郁也
ひとりでどのくらい走ったのだろうか。地平には果てがない。アクセルを踏み続け、車外の狼と平行して草原を突き抜けた。狼はときに宙を跳び、ときに地をすべり追跡してくる。車体に草や砂利があたった。街の明かりは遠く、荒れた地の草は時に刃物となって、金属をも切り裂く。途中、車の底で音がしたので、岩でタンクが裂けたのかもしれない。しばらく走り続けたが、やがて車は動かなくなり、メーターは0を示した。ガソリンが切れた車から、しずかにかげる地平を見ていた。斜め下方、日が暮れかかっている。草原を抜けた先は荒野だった。茶色い岩が点々としている。ハンドルの汗ばんだ手をはなし、眼鏡のフレームを上げる。指ひとつ分、見える光景
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