静心なく/蒸発王
 
なほど
空気の色は薄紅一色に染まり
こんなに騒がしい春は初めてのことだ

学校は呆然とそのさまに見とれた


校長が永眠されたのは

そんな開花の次の朝だった





眼前に広がる
渦高い春
其の開花が
別れの挨拶だと気づいた
瞬間


鋭い春疾風にあおられて
紅色の花びらが舞いあがった

天にも届きそうなほど
七つの桜の花弁は

上空へと手をいっぱいに伸ばしていた







  

久方の               
光のどけき春の日に
静心なく
花の散るらむ






『静心なく』 

戻る   Point(8)