書いたものが何かであったころ/佐野みお
 
紙魚による古い日記の傷み
思い出を放っておいたから
ところどころ判読不能で
繰ると震える頁の立てる低い音
音は、シ、ミ、シ、ミ、と
B、E、B、E、B、と
古い日記の痛みの音

あなたから届いた手紙があまりにぴんとしていて
それを広げようとして私は指先を切ったことがある
あまりにぴんとしたものを受け取ろうとして
しばらく指先はしくしくと凍みつづけた

B、E、BE、BE
その痛みがまだ残っていたころの音
シ、ミ、
BE
〜であれ
いたみであれ?
しみであれ?

手紙を探しているのだ
あのころ何がそれほどぴんとしていたのだろう
見つけたところでそれもまた判読不能だろうか
震えるだろうか
シ、ミ、と
BE
しみた
いたかった
あなたと
しみていたむものであった
あまりにぴんとした何かを
あなたと私は交わしていた

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