まだ何も見えない/水町綜助
 
バスの窓が煤けて、町を映し続けている 六十キロ

断続して、町の輪郭として、区切られているビルは、断続して

ビルとビルの隙間の半分には、雑誌と暗闇と雨水がともり

上半分には、ただそこにあるだけの空が注がれ、蚊が浮かび

なに色かに染まっているのだろうが

正面に来るたびに、鍵盤の音がひとつひとつ鳴るので

目はハレーションを起こして

光が撫でるのだという事しか分からない

連続する薄い光が、

風の抵抗と同じ音で

視界を縦と横にひっかいて線引きしていく

その傷からしみこむのは

やっぱりまた

光か

模型の町が流れていく

たったひとつなに色かに浮き彫りにされて

ながれる

口は薄く開かれていて

ながす




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