さくらいろ/銀猫
 
サテンの光沢まばゆく
風が雲の緞帳を翻すとき
ひととき白日夢に眩む

まだ蕾、とも呼べぬ小さな膨らみは
幼すぎて花の名前を知らない

その風の名残のなかで
わたしは繰り返される春を
絵にしてみるが
思うのはさくらばかり

芽吹きの淡い緑色や、やわい草の匂い
それらの思惑より
たった数日を繚乱する
さくらに惑う

はらら、花びらは
恋うる瞳の潤みに何処か似て色めき
うすい、うすい赤は
すべてのいのちを恋に誘う


パレットのうえで苺を潰そう
切ない匂いのする白の絵の具で
ひかりを描くために

(風が)

乾かぬうちに
花びらが絵になり
去り際のかなしみだけが
手足をもがれてふうわり、
古木の足元に埋まってゆく

(春が)
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