あーあ/水町綜助
 
薄い太陽の光が、背の低いビル群を淡く照らし、それは平面的なまぼろしとなって私の脳裏に像を結んだ。私は幹線道路をはしる車たちの巻き起こす、いがらっぽい風に顔をしかめながら、長い橋の上で人を待っている。たばこを喫っているのだけれど、空気が悪いので不味い。都会の水道水でいれた珈琲が不味いのと同じ事で。

前髪が一束風にもつれて瞼に張り付いた。警笛が鳴って、待ち人は来ないことを告げた。
私は帰る道すがら今日の夜と明日の過ごし方を思案して、ちいさな文房具屋で薄っぺらなオセロ盤を買った。その後スナックのゴミバケツの上で丸まっていた、桃色の毛を生やしたねこを抱え込み、黒の外套の前を閉じた。

家の戸をくぐり、ねこを座布団の上に降ろしお湯を沸かす。しゅんしゅんと薬缶は音をたて始め、窓の外には夜の帳が降りだした。
私はねこにお茶を出し、オセロ盤を広げ、白と黒の石を積み上げてひとしきり遊んだあと、うつ伏せになって深く眠った。そしてそのころ、今はもう黒い輪郭ばかりになってしまった町の上に、ガラス細工の天楼が霜柱のように浮かび始めていた。

あーあ
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